〜愛らしいもの〜
 
斉藤 たみ子
 
 二年ほど前、まだお元気でいらしたDen.に詳しい露木尚治さんが田中良高先生のWILD ORCHIDS IN MIANMARの本を手にされ「斉藤さん、この本どう?」と手渡してくれた表紙のV. coeruleaの迫力に圧倒され自生地にはまだこんな状態で残されているのかと息を呑みました。裏表紙にかえしたとき、そこには私の大好きなランのひとつ、Den. chrysocrepisが!透き通った黄色に鈴のようなリップ。これがミャンマー固有のものであること、そしてPaph. bellatulumと自生地も花期も同じと知りました。ページをめくる度に写真の素晴しさに感動し、できることならば早い機会にミャンマーを訪れてみたいと思いました。今回の田中先生のミャンマーのツアーはまさに私の願いをかなえてくれるものだったのです。どんなことがあっても参加すると決めました。
     
 
やっと見つけたDen. chrysocrepisの山での蕾つき自生株とインレー湖畔で見た開花姿
 
 いよいよ鈴のようなchrysocrepisに逢いに出発します。そろそろ雨季に入るミャンマーは毎日スコールがあり改造耕運機での移動は難しく、大きな木製車輪の牛車に変更です。四人ずつ分乗し二頭の牛に引かれてドロドロの泥土と大きな石ころの山道を登って行くのですがガッタン、ガッタンと石ころの上を通るたび荷台は大きく傾き私たちの体も浮き上ります。おまけに途中から雨が降り出し、はるか遠い目的地まで皆、振り落ちないよう必死で荷台に掴まりようやく着いたところはお寺の孤児院の学校でした。牛車から解放されて腰から下はぐしょぬれになったけれど逸る気持は、bellatulumを目にすることです。10分位山道を歩き茂みの中に進むと「ここにあったよ!」の声で皆、いっせいに駆け寄ります。目が慣れてくるとつぼみつき、数輪開花しているものがあちらこちらに群生しています。10日ほど後であれば一斉開花のすばらしい群生の様子が私たちを圧巻の世界へ引き込んでいたでしょう。残念至極です。
 他にはDen.crystallinum、Pholidota、Coelogyne、Oberonia などが見られました。
 

牛車(バッファロータクシー)で登る
 
 私の目的のものはなかなか見つかりません。しばらくして二、三人の輪の中に10センチほどのDen.の株が見えました。それは2本のバルブに二輪のクリーム色をしたピーナッツみたいなつぼみをつけたchrysocrepis、だったのです。ようやく見ることができました。その周辺にはいくつか着生していましたが移動すると見かけることができません。1.5m〜2.0mくらいの高さのあまり太くない枝に着生し大きな株でも20cmくらい。節から高芽が出ているものが殆どで高芽にもつぼみがついています。バルブは扁平でかなり乾燥した状態で生育していたようで株全体は黄色っぽく、かなり日照にあたっているのかと思いました。つぼみはどれも二輪ずつ、明日には咲きそうなのもあります。私が見かけた株の中には一株も開花後のものはありませんでした。二日花の命では都合よくめぐり合わせとはいかないものです。
     
 
グループが初めて見つけたベラチュラムとちょうど開花期でよく見かけたホリドータsp.
 
 学校に戻りもうひとつの大きな目的である学校建設の資金、時計、文具などを寄贈して再び牛車に揺られ山を下ります。出発地に戻ったのはもうすっかり暗闇でしたが村人たちは牛車の私たちを、にこやかな笑顔で、迎えてくれました。
     
 
孤児院のこの子らに持参の品を贈る
     
 二日後の三泊したインレー湖上のシュエインターホテル、アン・レストランの野生ラン植物園にレンガのかけらと炭の鉢の中に咲いたchrysocrepisに出会えたのはラッキーでした。 
「あなたに逢いにきたのよ!」と、愛らしいものへ私の熱い思いを伝えた事はいうまでもありません。
     
2006.5.27〜6.3 ミャンマー
 

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