Cymbidium goeringii  

早春の雑木林、まだ木々が芽生える前、いち早くシュンランが咲き始めます。
明るい林床でシュンランの香りにつつまれると、春が来たなと感じます。




Cymbidium goeringii

北海道や沖縄方面を除いて日本全国もっとも一般的に見られるランで、3〜4月に開花します。とりたてて解説する必要もないでしょう。里山的環境が適しているようで、下刈りされて明るい所ではまだまだたくさん見かけます。
ご存知のように変異体が選抜されて園芸品種になっています。花の基本は緑色ですが、赤花、黄花、素心、、、山野を歩いてみても、株ごと少しずつ変化があります。自分で歩いて見つけた変異花をいくつかお見せします。1茎2花、黄花、白花、ストライプ、背萼片二股です。残念ながら赤花にはまだお目にかかっていません。1茎2花や黄花は比較的よく目にします。

黄花にはちょうどハチが訪花したところでした。注意して見ていると結構訪花昆虫が見られます。小型のハチ類、アリ、そしてクモも訪花昆虫を待ち構えています。
何が報酬なのでしょうか。花の中で死んでいたハチを見つけました。
唇弁には2条の隆起があり、その間に割れ目があります。このハチは隆起に食いついていました。この割れ目があやしそうです。開いて舐めてみると微かに甘みがします。開き切らない花や蕾にも訪花昆虫や齧られた痕が見られます。蕾の唇弁の割れ目を開いてみるとしっとり濡れています。舐めて見ると甘いのです。
この花蜜を求めて虫たちがやってきているようです。
蘂柱と唇弁、そして側花弁に囲まれた空間を、虫が奥の割れ目めがけて進みます。
そして後退するとき後背部に花粉塊が付着し、別の花を訪花したとき同じ行為をして柱頭にその花粉塊をつけさせる仕組みです。残念ながら花粉塊をつけた昆虫は確認できていませんが、このくらいのハチのサイズだと旨くゆきそうです。こういう訳ありな仕組みがランならでわです。

花の寿命は長く1ヶ月ぐらい持ち、香りも残りますが、もう蜜がありません。
他の草木の花も咲き始めて、訪花昆虫は見られなくなりました。
花粉塊は結構なくなっています。しかし果実ができるのは僅かです。巧妙な仕組みで虫に受粉を託すシュンランですが、効率は決してよくないようです。しかし、一旦結実すれば、それこそ膨大な数の種子ができます。自家受精をせず、コストをかけてもその方がやはりよいのでしょうか。そして、この性の営みこそが変異を生み出しているのです。

別名、ホクロとかジジババと呼ばれます。ホクロは唇弁の斑紋からきています。
ジジババは蘂柱と唇弁を夫婦と見たて、ホクロのできるまで末永くと言うことでしょうか。  シュンランは北米に持って行くと結構人気があると聞きます。今後、東洋ランとは異なった展開もありそうです。
 日本のランにも焦点を当てていくことになりました。今回はシュンランの私的観察記でした。たまにはフィールドでランの生の営みを覗いて見てみませんか。



写真・文 中山博史

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